「男尊女卑」「嫌い」「うざい」などの批判的な意見も多い中、さだまさしの『関白宣言』は、今も名曲として高い人気を誇っています。なぜでしょう?
さだまさしの名曲『関白宣言』に込められた不器用な男の本当の愛を、じっくりとひも解いていきます。
関白宣言を勘違いしてない!?【不器用な男のラブソング】
ではまず『関白宣言』をご覧ください。
勘違いしている人多し!【男尊女卑?】【クズ男のひとりよがりな曲?】
- 亭主関白を思わせるタイトル
- 偉そうな歌詞の内容
から、さだまさしさんの『関白宣言』を、とんでもないクズ男の曲だと勘違いしている方も多いです。
でも待ってください!
関白宣言の本質は、【不器用な男のラブソング】。妻になる女性への、深い愛を歌った曲なんです!
曲を最後まで聴きもせず、表面だけをパッと見て「嫌い」だと言っていませんか?
それ、とてももったいないことですよ!
最後までちゃんと聴いたよ!曲の意味もわかってる。それでも嫌いなんだ!
という方は、申し訳ございませんでした。
最後まで聴いてもなお『関白宣言』が嫌いなら仕方ありません。それもひとつの感じ方です。
作品というのは受け取り手がどう感じるかですから、好きも嫌いもあなた次第。
自由に受け取っていいものと思っています。(実際、曲中の男はかなり傲慢な言い方をしますしね(笑))
ですがもし、あなたが『関白宣言』を最後まで聴いたことがないのであれば、まずはじっくりさだまさしさんの歌声を聴いてほしいのです。
『関白宣言』の印象が、ガラッと変わるかもしれませんよ!
私(ちなみに女性ですよ)は『関白宣言』大好きです。 『関白宣言』を最後まで聴くと、男の自己中なわがままではなく【不器用だけど深い愛】を読み取ることができます。 確かにわかりにくいし、回りくどいですが、逆にその味わい深さに惹かれるんです^^
さだまさしさんは落研出身らしいけど、落語とかの面白さがわかる方には、わかるんじゃないかしら
こんな話も…
ある女性がカラオケに行ったとき、仲間のひとりが『関白宣言』を歌いあげました。
それを聴いた彼女は
「えっ!関白宣言ってこんないい歌だったの!?男尊女卑の歌だと思ってた!」
と驚いたといいます。
タイトルや冒頭の歌詞だけだと、確かに勘違いしますよね。
でも『関白宣言』の良さは、全部聴いて、はじめてわかるものなんです!
次の項で、歌詞の意味を見てみましょう。
関白宣言の歌詞の意味
じゃあいったい『関白宣言』のどの辺に【不器用な深い愛】とやらが隠れているのでしょう。
最後の一文にやっと出てくる男の本音
歌詞の一番最後に、
「忘れてくれるな。俺の愛する女は、愛する女は生涯お前ただ一人」
とあります。最後の最後だけど、直球ですね。
これこそが、曲の主人公が、妻になる女性に本当に言いたいことなのです。
それまで偉そうにぐだぐだ言っているのは、全部前置きにすぎません。
節々に見え隠れする情けなさ
しかもこの男、亭主関白を宣言しておきながら、結構情けない部分が見え隠れしています。
「できる範囲で構わないから」
- 「俺より先に寝てはいけない」
- 「俺より後に起きてもいけない」
- 「めしは上手く作れ」
- 「いつもきれいでいろ」
と、初っ端から言いたい放題にもかかわらず、「できる範囲で構わないから」…と、譲歩する姿勢も見せています。
亭主関白を地で行く男だったら、こんなこと言わないですよね。
本当は弱いのに、精一杯強がっているだけなんです。
情けないことに、強がってはみたものの、相手の反応を見てすごすごと引き下がっている様子さえ浮かぶでしょう?
「俺は浮気はしない。たぶん…」
「俺は浮気はしない」からの、
- →「たぶんしないと思う」
- →「しないんじゃないかな」
- →「ま、ちょっとは覚悟しておけ」
と、これも女性の反応を見てなのか、だんだんと照れくさくなっていく様子が見えますね。
コンサート中などの動画で、さださんがこの歌詞のところで「ニヤッ」と笑うところからも想像できます。
さださんのユーモアが感じられますね♪
男尊女卑なんかじゃない【一緒にしあわせになろう】という気遣い
曲をよく聴いてみると男尊女卑とはまったく逆で、2人で頑張っていこうねという気遣いが見えてきます。
「幸福(しあわせ)は二人で育てるもので、どちらかが苦労してつくろうものではないはず」
要するに、
【それぞれができることを精一杯やって、支えあっていこう】。
ということです。
これより前にある歌詞、
- 「お前にはお前しかできないこともあるから」
- 「それ以外は口出しせず、黙って俺についてこい」
からも【それぞれができることを精一杯やって、支えあっていこう】という気遣いと覚悟がわかります。
けっして「俺」だけが偉い、「俺」がお前の主人だ、なんて言っていません。
『関白宣言』は昭和の歌ですが、この部分は特に、令和の時代にも通じるものがあるかと思います。
「お前のお陰でいい人生だったと俺が言うから。必ず言うから」
- 「俺より先に死んではいけない」
- 「俺より早く逝ってはいけない」
とは、これもこの男の持つ【弱さ】ですが、死を前にした夫に「君のお陰でいい人生だったよ」と言われるのは、女冥利につきるのではないでしょうか。
惚れぬいた相手なら、なおさら…。
一生添い遂げた好きな人にこう言われるのは、案外悪くないものと、私は思います。
「時代に合わない」と言われたらそうなんですが…時代が変わっても「好きな人を支えてあげたい」と思い、相手がそれをちゃんと受け取ってくれるのは、そんなに悪いことじゃないです
歌詞から読み取れる『関白宣言』の意味
このように『関白宣言』に出てくる男は、本当は情けない、ちょっとヘタレな男なのです。
それが一世一代のプロポーズをするにあたって、勇気を持って強気に出てみたわけですね。
さだまさしさんの『関白宣言』は、男尊女卑の曲なんかではありません。
どころか、愛に溢れた不器用な男の一途なラブソングです。
「何様なんだ」
とか
「お前とか言うな」
なんて目くじら立てないで、作品としての『関白宣言』の良さを、じっくりと味わってみましょう。
関白宣言が生まれた背景
『関白宣言』は、どのような背景のもとで作られたのでしょうか。
「最近の男は駄目になった」元芸妓のママのひとこと
さだまさしさんが関白宣言を作詞作曲したのは、昭和54年のこと。
当時さださんが通っていた京都のスナックのママに言われたことがきっかけです。
「最近の男は駄目になった。だから若い娘も駄目になった。男はん、しっかりしとくれやっしゃ。お師匠はん、そういう歌を作っとくれやっしゃ」
引用:さだまさし 『噺歌集』 V、文藝春秋、1993年、106-110頁
そうして生まれたのが、昭和54年にリリースされた『関白宣言』です。
当初のタイトルは『王手』でしたがわかりにくかったため、副題だった『関白宣言』が正式なタイトルとして採用されました。
時代背景は?女性が脚光を浴び始めた時代
『関白宣言』のリリースされた昭和54年頃と言えば、女性の地位が高くなってきた頃でした。
世にいう【ウーマンリブ運動】が広まった時代です。
それまでの夫の後ろを歩く慎ましやかな感じではなく、自ら社会に出て活躍しようといった動きが世界中で広まっていました。
ウーマンリブ運動
1960年後半~1970年前半にかけて、世界中で起きた女性解放運動のこと。
フェミニズムの流れのひとつです。
ここがポイント
日本でも、強い意思を感じさせる女性の歌が流行っていました。
- 庄野真代『飛んでイスタンブール』
- 渡辺真知子『かもめが翔んだ日』
- 山口百恵『イミテイション・ゴールド』 など
そこにリリースされた『関白宣言』は、女性団体などから非難轟々。
彼女たちもまた、タイトルや冒頭の歌詞から『関白宣言』を勘違いしてしまったのでしょう。
マスコミ的にも話題にしやすいですから、『関白宣言』及びさだまさしさんは、【男尊女卑】のレッテルを貼られてしまいます。
そもそも『関白宣言』はさだまさしの私小説ではない
ここでひとつ押さえておきたいのが、『関白宣言』はさだまさしさんの私小説ではないこと。
つまり、さださんの思想そのものではないということです。
これも多くの人が勘違いをしているので、非難が集中した理由のひとつです。
もちろん、さださんの体験や考え方も練りこまれてはいますが、ストーリーとして切り離して味わうのが正解でしょう。
『関白宣言』にはアンサーソングがある!?【関白失脚】
ところで『関白宣言』には、後日談としてのアンサーソングがあります。
『関白失脚』です。
いや失脚しとるやないかーい!
結局、女房の尻に敷かれてしまった、とオチがつくのです。(笑)
妻にも子どもにも相手にされず、話し相手は犬ばかり…と、『関白宣言』の時とは打って変わって寂しげな背中が見えるよう。
主人公の男の気持ちに呼応するように、さださんも寂しげに歌いあげます。
『関白宣言』は、『関白失脚』とセットで聴くから面白い
というファンの方も大勢いるみたいですよ^^
まあ結局いつの世も、女は強いってことですね。
関白宣言を勘違いしてない!?さだまさしの名曲に隠された深い愛とはのまとめ
ポイント
- さだまさし『関白宣言』は、男尊女卑だと勘違いされやすい
- その実、不器用な男のラブソングである
- 曲をじっくり最後まで聴くと、節々に深い愛が隠されているのに気がつく
- 曲の主人公の男は、実は情けない、ヘタレな男
- 数年後、結局妻の尻に敷かれてしまったというアンサーソングがある
いかがでしたか?賛否が分かれる、さだまさしさんの『関白宣言』。
好きな人はすごく好きだし、嫌いな人はすごく嫌いな曲という感じもしますが、少なくともさださん自身に、女性を軽んじるような思想はありません。
リリースされた当時から批判や抗議がわんさかあった反面、今なお人気の高い『関白宣言』。
人のいい、さださんが歌うからこそ、すばらしいという意見もありますね。
タイトルや冒頭の歌詞だけ見て食わず嫌いしないで、一度じっくりと聴いてみていただきたいものです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。