ニュースでたまに耳にする「横領事件」。自分には関係のないことだと思っていませんか?
しかし、どんなことでも明日は我が身です。
自分や家族が横領してしまった、しかも返せないくらいの大金…となってしまった場合にどうなってしまうのでしょうか。
法律事務所で働いていたことのある私が詳しく解説していきます。
横領したけど返済できない!逃げることもできないって本当!?一体どうなるの?
最初に結論からいうと、横領したけど返済できない場合でも逃げることはなかなか難しいです。
横領事件を起こすような人は、自分にお金がないから横領してしまうので、返済できない状態にあることがほとんどです。
ですが、「お金がないなら仕方がないね。返さなくていいよ。」ということにはなりません。
お金を返せないけど、返さなくてもいいことにはならない、となると一体どうなるのでしょうか。
横領したけど返済できない場合は被害届が出される可能性が高い
みなさんは「横領」と聞くと、「誰かが会社のお金を取った」というイメージを持つと思います。
実は、横領には3つ種類があり、会社のお金を横領することは「業務上横領」と呼ばれます。
会社のお金を横領して、返済できない場合は、会社が被害届を出す可能性は高いです。
反対に横領をしても返済できるのであれば、あえて被害届を出さない会社は多いです。
なぜなら、会社は対外的な信用を守ることや横領したお金を確実に返してもらうことを優先するからです。
しかし、犯人が返済できないのであれば、会社は被害届を出さない理由がありません。
なので、会社は横領されたお金をあきらめて、刑事責任を追及するために被害届を出すことになるのです。
被害届を出されると逮捕されることになる
会社が被害届を出すと、犯人は逮捕されることになります。
しかし、被害届を出されてすぐに逮捕されることはありません。
業務上横領は複雑な事件なので、警察が被害届を受理しても、逮捕や家宅捜索までタイムラグがあります。
犯人から見れば、どこからも連絡がないので「会社が諦めてくれた。」と思いがちですが、違います。
なにも連絡がない間、警察は着々と捜査を進め、犯人を逮捕する材料を集めています。
なので、しばらく経ってから突然警察が家にきて逮捕されるということになります。
警察がくるタイミングは、横領が発覚してから【半年~2年後】くらいが多いそうです。
「警察が来る前に逃げればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、被害届が出された以上、警察も犯人をマークしているでしょうから、それも難しいでしょう。
自己破産しても横領したお金の返済からは逃げられない!
自己破産すると借金などの債務の支払いを免除されます。
「じゃあ自己破産すれば、横領したお金を返さなくていいのでは?」と思いますよね。
ですが、自己破産しても横領したお金の返済は免除されません。
こういった免除されない債務のことを「非免責債務」と言います。
横領しても自己破産すれば返さなくてよくなるなら、みんな横領して自己破産しますよね。
そのため、犯罪によって相手に与えた被害は、自己破産してもなくならないことになっています。
横領したけど返済できない!家族にも影響はあるのはどんな場合のとき?
横領してしまったけど、返済できない場合、犯人は逮捕される可能性が高いことをご説明しました。
では、その犯人に家族がいた場合、会社から家族に「横領したお金を返してくれ」と言われるのでしょうか。
結論としては、基本的に家族が返済しなければいけないことはありません。
また、横領したのは犯人だけなので、家族も一緒に逮捕されることもありません。
しかし、以下の場合は家族にも返済する義務が生じることがあります。
横領した人の身元保証人になっていた場合
1つ目は、家族が横領した犯人の身元保証人になっていた場合です。
会社に就職するときに、会社から「身元保証人をつけてほしい。」と言われたことがありませんか?
そのときは、特に何も考えずに家族を身元保証人にすると思います。
実は、この身元保証人というのは、会社に雇われている人が会社に損害を与えた場合、身元保証人が損害を賠償しますよ、というものです。
なので、会社のお金を横領して、それが払えない場合、身元保証人が代わりに支払うことになります。
しかし、身元保証人には有効期間があります。
身元保証人である期間は最大で【5年】、会社と期間を決めていなければ【3年】です。
なので、横領した犯人が会社に入社してから5年以上経っていた場合は、身元保証人が支払う必要はありません。
また、身元保証人が支払う賠償額には上限を決めなければいけません。
もし、犯人が入社5年以内だった場合、身元保証人はこの決められた上限額だけを支払う義務があります。
たとえば、身元保証人の賠償額の上限が100万円と決まっていて、犯人が横領したのが300万だった場合、
身元保証人は100万円だけを払えばいいということになります。
家族も横領したお金だと知って使っていた場合
2つ目は、家族も横領したお金だと知って使っていた場合です。
たとえば、横領した犯人から「このお金は横領してきたものだ」と言って渡された場合などです。
このように、犯人ではない人が「このお金は悪いことで得られたお金だ」ということを知っていて使ってしまうことを「不当利得」と言います。
不当利得になる場合、使ったお金は返済しなければいけません。
なので、会社から家族に「お金を返して」と言われる可能性があります。
横領したけど返済したい!分割で返済することはできる?
今まで横領したけど返済できない場合についてご説明してきました。
しかし、横領したけど金額があまり大きくなかった場合など、どうにかすれば返済できることもあります。
全く返済しないよりも、少しは返済していたほうが、のちに逮捕されたり訴えられた場合でも印象はよくなります。
「横領したけど返済したい。でも一括では無理…」という場合に分割でも返済することはできるのでしょうか。
横領したお金は分割で返済できることもある!でも条件もあります
先ほどもお伝えしましたが、会社は犯人の逮捕よりも横領されたお金の回収を優先します。
なので、交渉すれば、会社が「分割で返済してもいい。」と言ってくれる可能性はあります。
交渉する場合は、横領した人が「分割で払います。」と言っても信じてもらえないので、弁護士を間に入れる方がスムーズにいきます。
しかし、分割での返済の場合、以下のような条件がつくことが多いです。
初回の支払金額が多くなる
1つ目の条件は、初回の支払金額が多くなることです。
横領した金額が大きい場合、分割での返済になると支払期間が長くなります。
支払期間が長くなると、払う方の状況が変わって支払えなくなることもあります。
なので、会社としては、なるべく支払期間を短くしたいところです。
そのため、支払期間を短くするために、初回の支払金額が多くなることがあります。
通帳のコピーを提出させられる
2つ目は、通帳のコピーを提出されられることです。
通帳の履歴から生命保険に入っていることや証券口座を持っていることなどが分かります。
そういったことが分かっていると、もし横領した人が支払えなくて逃げたときでも、そこから回収することができます。
そのため、横領した人の資産状況を把握するために、通帳のコピーを提出させられることがあります。
「期限の利益喪失条項」を合意書に入れられる
3つ目は、「期限の利益喪失条項」を合意書に入れられることです。
「期限の利益喪失条項」とは、一回でも支払いが遅れると、返済し終わっていない金額を全部一括で支払わなければならなくなる条項です。
横領した方からすると恐ろしい条項のように思います。
ですが、消費者金融から借金をするときにも意外とこの条項が入っていることがあるので、特別ということではありません。
連帯保証人を付けるように言われる
4つ目は、連帯保証人を付けるように言われることです。
横領した人の他に連帯保証人を付ける理由は、横領した人が支払えなくなっても連帯保証人からお金を回収するためです。
この連帯保証人には親族がなることが多いので、迷惑をかけたくないなら一生懸命返していきましょう。
分割での返済が終わったら告訴や逮捕はされない?
横領した人が分割でコツコツを支払って、やっと支払いが終わったとしても刑事告訴や逮捕がされないとは言えません。
「横領したお金は全部返したのにどうして?」と思いますよね。
横領したお金を全部返すと、会社に被害を弁償する義務はなくなりますが、罪が消えるわけではありません。
なので、支払いが終わっても会社が刑事告訴をするというケースはあります。
しかし、もう返済が終わっているので、刑事裁判になっても検察官や裁判官から「ある程度許されている。」と思ってもらえます。
起訴されて有罪になる可能性もゼロではありませんが、不起訴処分になったり、有罪でも刑が軽くなる可能性が高いです。
返済が終わった後の告訴は会社からの嫌がらせのようにも思いますが、それほど横領罪という罪は重いということです。
横領したけど返済できない!逃げることもできないって本当!?のまとめ
- 会社のお金を横領したけど返済できない場合は、会社から被害届が出されることがある
- 被害届を出されると逮捕されることになる
- 自己破産しても横領したお金の返済からは逃げられない
- 横領したけど返済できない場合に家族にも影響があるのは以下の2つの場合
- 横領した人の身元保証人になっていた場合
- 家族も横領したお金だと知って使っていた場合
- 横領したお金は分割で返済できることもある
- 横領したお金の返済が終わっても告訴や逮捕されることがある
ドラマや映画では、横領した犯人が上手く逃げる、なんてことがありますが、実際はなかなか難しいことが分かったと思います。
横領という犯罪は、最初は「ちょっとだけ」のつもりが、いつの間にか大金に膨れ上がっていることが多いです。
私が働いていた法律事務所の弁護士も「横領って最初の1回目はバレないんだよね。」と言っていました。
最初に1万円横領してバレなかった、じゃあ次は10万円にしてみよう、とお金に取りつかれていきます。
会社も「あなたなら大丈夫」と思って会社の金銭管理を任せているのですから、その信頼を裏切らないようにしましょう。