最近よく聞く「発達障害」という言葉ですが、一般の方にも発達障害への認知や理解が広がった一方で、診断を受けたことによるデメリットも出ています。
以前なら取り残されていた子供が、診察を受ける機会を得たのは進歩なのですが、発達障害とはいえない子供にまで、過剰な診断することがあるためです。
今回は、発達障害の診断を早期に受けることのデメリットについて考えていきます。
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発達障害の診断を幼児期にすることのデメリットとは?
発達障害を診断するには、地域の子育て相談やかかりつけ医に相談して医療機関に繋げてもらうことになります。
しかし発達障害が専門の医療機関は、希望する人より数が少なく、予約を入れても診察してもらえるのは数カ月先というのが現状です。
なんとか診察してもらえたとしても、次のようなデメリットが発生する可能性はあります。
デメリット①親自身が診断結果に戸惑う
しかし、ようやく診察してもらっても、診断結果には戸惑いを覚える親御さんが多いのです。例としては以下の通りです。
・診断名が付く・付かないに関わらず、どんな結果であっても、その診断をどう受け止めたらいいか母親自身が戸惑う
・夫や両親は診断結果を認めたがらないので、誰も相談する人がいない
・助けを求めた療育機関は、人数が多くて受け入れてもらえなくて、状況は何も変わらない
・「遺伝子が悪い・しつけが悪いだけ」などと周囲の理解を得られなくて孤立する
・他の子供に悪影響だからと、幼稚園や保育園をやめざるを得なかった…など
残念ながら、何か診断が付いても、親がその診断を受け入れるまでには時間がかかります。
また運良く療育機関に繋がれたとしても、モヤモヤした気持ちで過ごすことになる場合もあります。
デメリット②幼児期の診断には誤診の可能性がある
医師が幼児期に診断をしても、本人は話せないので、その症状は母親や周りの状況から判断せざるを得ません。
しかし発達障害とは、グラデーション状の障害であり、発達障害者と健常者という線引きがとても難しいのです。
「できないことはある」「何倍も努力をすればできる」といったグレーゾーンは必ず存在します。一説によると、そんなグレーゾーンは10人に1人ともいわれています。
例えば、自閉症と診断された女児が「注意欠陥多動性障害」だったケースもありました。注意欠陥多動障害は男児が多いため、発見が遅れたのです。
診断が変わると、その対応方法も変わってしまいますよね。幼児期においてその診断は専門医にも難しく、結果として誤診することはありうるでしょう。
デメリット③療育がその子にとって良いとも限らない
まず療育とは、障害やその可能性のある子供に対し、一人ひとりの発達の状態に応じて、現状の困りごとの解決と、将来の自立を目指して発達支援をすることです。
しかし、その療育がその子にとって必ずしも良いとはいえないケースも出ています。
例えば、音に敏感な子供に対して、大きな音に慣れさせようする療育もあったそうです。しかし、それは子供にとっては恐怖でしかありません。
大きな音も成長するにつれて慣れてきたそうなので、苦手なことでも時が経てば解決することだってあるのです。
デメリット④障害と間違えて才能をつぶしてしまうこともある
かつてドラマで有名になった「サバン症候群」という、一度見ただけで全て覚えているといった特別な能力を持っている人がいます。
実は、知能指数(IQ)が非常に高い子供に、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害といった発達障害と、誤診されることが多いと言われています。
親や療育機関は、その子供の対人関係や社会生活が楽に過ごせるようにと、色々な療育をします。
しかし療育とは「普通の子供に近づける」という傾向があるので、実はすごい才能をつぶしてしまう可能性もあるのです。
早期診断はデメリットばかりではない
上記とは矛盾しますが、早期診断がデメリットばかりとは言えません。
特に自閉症スペクトラム障害については、1歳までに発症すると言われています。
診断名を知ることで「育てにくいと感じたのは私のせいではなかった」と母親の気持ちが楽になることもあります。
療育につなげると、苦手を認識することで本人が生きやすくなり、将来が明るくなることもあるでしょう。
発達障害を疑い相談することはとても大切なのですが、おかしいと思うことがその子の個性であるときもあるので、診断を受けるのは注意が必要になります。
発達障害といわれる障害の種類とは
では実際に、発達障害と呼ばれる症状について詳しくみていきましょう。発達障害とは次の5種類に分かれています。
【①自閉症スペクトラム障害(ASD)】
★1歳過ぎから発症
自閉症スペクトラム障害とは、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などの総称診断名です。
①社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ
②限定された行動、興味、反復行動
③感覚に関する過敏性や鈍感性
発症年齢が遅い時、診断基準を完全に満たさない際に「非定型自閉症」という診断がされます。
100人に1~2人とされており、男子に多いとされています。その75%は知的障害もともないます。
【注意欠如多動性障害(ADHD)】
★7歳までに発症
発達年齢に比べて、極端に以下の症状がある場合です。
①落ち着きがない、待てない(多動性・衝動性)
②注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)
多動性・衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。
【学習障害(LD)】
★10歳頃までに発覚しやすい
知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなどで特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。
ディスレクシア(読字障害)、ディスグラフィア(書字障害)、ディスカリキュリア(算数障害)と呼ばれることもあります。
【チック症】
★4歳〜11歳までに発症
チックは、出したくないのに思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声のことです。
一時的に現れるのはよくあることですが、体質的にチックが1年以上にわたり持続し、日常生活に支障を来すほどになると、その場合にはトゥレット症とよばれます。
【吃音】
滑らかに話せないという状態をいいます。音を繰り返す、音が伸びる、なかなか話し出せないといった、さまざまな症状があります。
幼児期における発達障害の診断が、必ずしも良いことばかりとは言えませんが、かといってずっと見逃してしまうと、子供の生きづらさにつながってしまいます。
最近「大人の発達障害」についても言われるようになってきましたが、実際大きくなるまで気づかれず、診断も治療されずに生きてきた人もいます。
その結果、対人関係や日常生活の困難により、うつや不安障害などの二次障害に悩む人が大勢いるのです。
そのため、小学生に入り症状がハッキリしてきたらきちんと診断してもらうのは、非常に重要なことです。
子供の発達障害を疑う場合の幼児用チェックリスト
五体満足で子供が生まれても、1歳を過ぎる頃から、育児書や周りの子供と比較して、母親たちが心配を始めます。
「落ち着きがない」「言葉を話さない」「何か育てにくい気がする…」そんな不安からです。
そして保育園で「日常生活のルーチンができない」など伝えられると、もしかしたら「この子は発達障害では…」と疑い始めるのです。
発達障害とは「生まれつき脳機能になんらかの偏りがあって、精神的あるいは行動的な特有の症状を示すもの」と定義されるものです。
得意・不得意のアンバランス性のため、周囲の人に関わることが難しくなり、社会生活に困難が発生します。
発達障害は身体障害などと違って、外見からは分かりにくいため、その症状や困りごとは十人十色といえます。
幼児期の年代別に、発達障害を発見するためのチェックリストを用意しましたので、気になる方はチェックしてみてください。
【チェックリスト 1〜2歳】
☑ 極度の人見知りまたは全然しない
☑ 親の行動を真似するのが苦手
☑ 指さされた方を見ない
☑ 名前を呼んでも知らん顔
☑ 言葉の発達が遅い
☑ 人より物に関心がある
☑ 物を一列に並べたり、積んだり、回したりする遊びを繰り返す
☑ 極端に落ち着かない
☑ 寝付きが悪く夜泣きがひどい
☑ つま先立ち歩きを長く行う
【チェックリスト 2〜3歳】
☑ 思い通りにならないとすごく怒る
☑ 特定の物を異常に怖がる
☑ ごっこ遊びをしない
☑ 自分ひとりの世界で遊ぶ
☑ かんしゃく・パニックをよく起こす
☑ ジャンプができない
☑ 利き手が定まらない
☑ ひどい偏食で食事に時間がかかる
☑ 寝付きが極端に悪い
☑ トイレに行くのを拒否する
【チェックリスト 3〜4歳】
☑ 独り言や自分の作った造語ばかり話す
☑ 友達に興味がない
☑ 子供を怖がり、一人で遊ぶことが多い
☑ 人混みを極端に嫌がる
☑ 順番を待てず、いつも一番になりたがる
☑ 手先が不器用で丸が描けない
☑ 攻撃的な行動が多い
☑ 座っておられず極端に落ち着きがない
☑ 眠りが浅くすぐに起きる
☑ 服や手が汚れるのを極端に嫌がる
やみくもに「この子は発達障害ではないか…」と疑うのも問題ですが、親御さんが何かおかしいと思う時は当たっていることも多いです。
もし子供に次のような症状があり、本人も困っているのであれば、子育て相談などで一度相談してもいいと思います。
学童期における子供の発達障害チェックリスト
それぞれの発達障害で発症する年齢が多少違うので、年齢が上がるにつれて、幼児期には分からなかった症状がハッキリしてきます。
そこで小学生になってからのチェックリストもありますので、参考にしてみてください。
【チェックリスト 小学生以上】
〈自閉症スペクトラム〉
☑ 道順をよく覚えているが、人に説明するのは苦手
☑ 洗濯機など回転するものが好き
☑ 大きな音・風・臭いに敏感
☑ 「あれ」などに省略すると意味が分からなくなる
〈ADHD(不注意症状)〉
☑ 細部に注意を払わない、または課題や活動を行う際にケアレスミスをする
☑ 直接話しかけられても聴いていないように見える
☑ 持続的な精神的努力の維持を要する課題に取り組むことを避ける、嫌う
☑ しばしば学校の課題や活動に必要な物を失くす
☑ 日常生活でもの忘れが多い
〈ADHD(多動性・衝動性症状)〉
☑ 手足をそわそわと動かしたり、身をよじったりすることが多い
☑ じっとしていられず、静かに遊ぶことが困難である
☑ 過度のおしゃべりが多い
☑ 質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い
☑ 順番を待てないことが多い
☑ 他人の行為を遮ったり、邪魔をしたりすることが多い
〈ディスレクシア/読字障害〉
☑ ひらがな・漢字が読めない
☑ 行を飛ばして読んでしまう
〈ディスグラフィア/書字障害〉
☑ うまく文字を書けない(線を抜かしたり、鏡文字を書いてしまう)
☑ 板書ができない、時間がかかる
☑ 行やマス目からはみ出しが大きい
〈算数障害/ディスカリキュリア〉
☑ 数が数えられない、計算できない
☑ 時計が読めない、時間が分からない
☑ 筆算をするときに数字がずれて間違えてしまう
この頃になると、子供が普段の生活でとても困っている場合が多いです。
本人は戸惑っていて分かってないのに、周りから注意されることが多すぎると、自己肯定感が低くなる可能性があります。
チェックリストに当てはまることが多ければ、専門機関に相談することが大切です。
発達障害の診断はデメリットがある?子供年齢別チェックリスト公開!のまとめ
- 自閉症スペクトラムのように、幼児の頃から分かる発達障害もあるが、早期に診断をするとデメリットが生じやすい
- デメリットとしては、①親自身が診断結果に戸惑う、②幼児期の診断には誤診の可能性がある、③療育がその子にとって良いとは限らない、④障害と間違えて才能をつぶしてしまうこともある
- 発達障害には5種類に分けられており、それぞれ発症年齢も異なるが集団行動ができにくい障害といえる
- ただし小学生頃になると、その障害が顕著になってきて本人も困り始めるので、診断をしてもらい対策をすることは大事である
- 大人になるまで障害を見逃されると、本人の自己肯定感が低くなり、うつなどの二次障害につながる可能性がある
今回は、子供の発達障害を診断することのデメリットについて考えていきました。
必ずしも幼児期に発達障害を発見することが良いことばかりではないと、ご理解いただけたかと思います。
診断までいかなくても、親御さんの胸のうちや本人の困りごとを専門機関に相談することは必要ですので、状況に応じて相談してみてくださいね。