精神障害と聞くと、何だか怖いイメージを
持つ方がいらっしゃるかもしれません。
身体障害のように一見では分からないので、どういう障害なのかは、実際身近にいないと分かりづらいですね。
しかし、心療内科や精神科で受け持つ病気には、治療が長引いてしまったり、寛解できず今後も付き合っていく病があります。
「精神障害者保健福祉手帳」は、精神疾患を抱えて生活するのに支障が出ている人が、福祉のサポートを受けるために必要なもので「障害者手帳」の一種です。
今回はそんな「障害者手帳」を持つことにデメリットはあるのか、運転免許を取ることなどに支障はないのかを調べました。
普段は知ることの少ない、精神障害について考えていきましょう。
Contents
精神の障害者手帳を所持してデメリットはないの?運転免許は取得可能
「精神障害者保健福祉手帳」を取ることでデメリットがあるかというと表面的にはないです。
厚生労働省も「手帳を持つことで不利益をこうむることはありません」との見解です。
とはいえ、本当にデメリットはないのでしょうか?まずはよくある疑問、運転免許取得からみていきますね。
障害者手帳を持っていると、免許取得・更新が難しいと思われがちですが、一部の方を除いては、治療で症状がコントロールできている限りどちらも可能です。
免許取得・更新のときは、運転に支障がないかどうかなど5つの質問票に回答しなければいけません。
この質問票で1つでも「はい」があれば、医師の診断書が必要となります。
また運転に支障をきたす恐れのある、具体的な病名については『道路交通法施行令』第33のニの三より、以下の病名になります。
・統合失調症
・躁うつ病
・てんかん
・再発性の失神
・無自覚性の低血糖症
・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
しかし、以上の病気であっても、運転に支障が無ければ特別な制限はありません。
重症の場合は、医師が公安委員会に届け出ることもありますが、統合失調症などの病気が原因といわれる事故は、全体の0.1%程度なので少ないといわれてます。
また上記にあてはまらなくても「運転に支障がある状態」と判断されれば、免許取得・更新に医師の診断書が必要とされます。
しかし以下の場合は、免許取得を禁じられています。
・認知症(日常生活に支障がある)
・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒
でもこの場合は仕方ないですよね。
よって障害者手帳があるからといって、運転免許が持てないということはありません。
精神の障害者手帳を所持しても就職・生命保険・結婚に支障はないのか?
他には障害者手帳を持っていると心配な、就職・生命保険・結婚の観点からみていきます。
就職する場合の注意点
障害者手帳を持つ人が、就職に不利であるとは言い切れません。障害のある人の特別雇用枠「障害者雇用枠」への応募ができるからです。
障害者雇用では、症状や体調などへの配慮を受けながら働くことができるほか、就職にあたって利用できる支援制度があります。
障害者雇用を促すための取り組みが「障害者雇用促進法」の3本の制度です。
【①障害者雇用率制度(法定雇用率)】
事業主に対し、障害のある人を一定率以上雇用するように義務づけた制度です。2019年の法定雇用率では、民間企業に対しては2.2%、国や地方公共団体に対しては2.5%で、今後もさらなる引き上げが予定されています。
【②差別禁止】
障害があることを理由に、募集や採用の対象から外したり、就職後の待遇にも不利な条件を課すことを禁止しています。
【③企業側が障害のある人に対して無理のない範囲で配慮を提供する義務】
障害のある人も仕事への平等な機会を得られるように、一人ひとりの困りごとを改善するために個別の対応や支援を行います。
採用時に障害の特性や体調、適性などに応じて仕事内容を調整でき、得意なことを生かして働きやすくなることがメリットであるといえます。
ただし通常の雇用の求人に比べ、やはり仕事内容が限られていること、給与が低くなる可能性があることがデメリットといえます。
しかし、本人が障害者手帳を持っていることを隠して、一般就労に応募しても違反にはなりません。
生命保険に入る場合の注意点
精神障害者保健福祉手帳を取得していると、生命保険に入る場合には義務として、健康状態を告知しなければなりません。
よって生命保険等への加入が通常より難しくなるのはデメリットと言えるでしょう。
しかし「引受基準緩和型」といわれる、健康状態の告知のハードルが低い保険商品なら、少し割高にはなりますが、加入することも可能です。
実は、精神疾患の方は長期入院することが多々あるため、一度入院すると医療保険に入るのも難しくなります。
しかし入院の際は、ひと月にかかった医療費がその一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合は公的制度である「高額療養費制度」によって、超えた金額分が返ってきます。
また通院の際でも、公的制度「自立支援医療(精神通院医療)」があります。
自立支援医療は治療にかかる医療費について上限があり、一定額以上の自己負担はありません(一部世帯を除く)。
精神疾患の場合は、このような公的制度を利用することで医療費負担を軽減できるので、民間の保険に頼らなくて済むこともあります。
結婚する場合の注意点
周囲からの偏見を気にする人もいるでしょうが、自分から伝えない限り他人からは障害者手帳を持っていることはわかりません。
もちろん結婚が禁じられることはありませんし、恋愛も結婚も自由です。
とはいえ病気が持っていることを、結婚相手となる人に伝えないのは倫理的に良くないですよね…。
結婚相談所においても、障害者の婚活は決して有利ではないです。「結婚後に苦労するかもしれないので、できれば障害者との結婚は遠慮したい」という心理からでしょう。
また精神疾患の場合、長期に渡って薬を服用しているため妊娠に注意が必要となります。
精神疾患者が女性の場合、無事に妊娠できたとしても、産後うつ病にかかる割合もかなり高いです。
子供が欲しいと思っているお相手だと、精神疾患を持つ人かは敬遠される可能性があります。
とはいえ、事前に自分のリスクを伝え、産婦人科と精神科の医師や家族に協力してもらうことで防げることもあります。
これらのリスクをお相手が知った上で、結婚に至るどうかは、お相手の気持ちと当人同士次第になります。
「精神障害者保健福祉手帳」を持つとメリットの方が多い
「精神障害者保健福祉手帳」は障害がある人を助けるものであり、福祉サービスを受けるパスポートのようなものなので、デメリットよりもメリットの方が多いです。
まず「障害者手帳」を詳しく知るために、その種類や対象者をみていきましょう。
障害者手帳の種類
障害者手帳には以下の3つの種類があります。障害の種類が身体・精神・知的によって分かれているためです。
・精神障害者保健福祉手帳
・療育手帳(横浜では愛の手帳)
これで身体、知的、精神的な障害があるということが証明できるので、スムーズに福祉のサービスを受けることができます。
そのなかで精神的障害がある人に発行されるのが「精神的障害保健福祉手帳」です。
精神障害者保健福祉手帳の対象者
対象とされるのは精神疾患があって、日常生活に制限がある人になります。どれも精神疾患の初診時から6ヶ月以上経っていることが証明できる診断書が必要です。
精神障害保健福祉手帳の対象になる、精神疾患は以下の通りです。
①統合失調症
②うつ病、躁病などの気分障害
③てんかん
④薬物やアルコールによる急性中毒、その依存症
⑤高次脳機能障害
⑥発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
⑦そのほかの精神疾患
引用:厚生労働省
【①統合失調症】
被害妄想・幻聴・興奮・思考の脈絡の乱れ・意欲や自発性が低下することで、家に閉じこもりがちになるなどの症状があります。
比較的若い頃に発症して、長期にわたり福祉の支援が必要となる場合が多いです。治療は薬物療法など。
【②うつ病、躁病などの気分障害】
うつ状態では、憂うつな気分・意欲の減退・自責的で悲観的な考えが見られ、不眠や食欲低下などの症状があります。うつ状態では自殺に注意が必要です。
躁(そう)状態では、過剰な活動欲求、誇大的な考え、浪費などのトラブルにつながります。治療は薬物療法など。
【③てんかん】
てんかんは脳の神経細胞に突然発生する、激しい電気的な興奮により、繰り返される発作です。
特発性てんかんは原因不明とされ、生まれた時から、てんかんになりやすい傾向を持っていると考えられています。
症候性てんかんは、脳の一部に傷がついたことで起こるてんかんです。
【④薬物やアルコールによる急性中毒、その依存症】
アルコールや覚せい剤などの乱用を、自分の意志だけでは止めることができず、身体や社会生活に問題が起きます。
【⑤高次脳機能障害】
ケガや病気により脳が損傷したせいで、記憶・思考・判断機能を失ってしまうのが「高次脳機能障害」です。
この高次脳機能障害があると、日常生活や社会生活に制約が出てしまいます。
【⑥発達障害(ADHD、ASDなど)】
発達障害は、生まれつきにみられる脳の働き方の違いにより、幼児の頃から行動や情緒面に偏りがある状態です。
保護者が育児の悩みを抱えたり、本人が生きづらさを感じたりすることもあります。
⑦はその他の精神疾患で、医師が認めるものとなります。
精神障害者保健福祉手帳の申請
手帳の申請をするには、医師の診断書と必要書類を役所に提出します。
症状の重さによって分かれる障害等級(1~3級)に該当すると認められたときに交付されます。
【1級】精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
【2級】精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
【3級】精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
引用:厚生労働省
障害等級別のサービス
障害等級により、下記のようなサービスが受けられることもあります。
【国によるサービス】
・所得税や住民税の控除
・相続税や贈与税の控除
・自動車税や自動車取得税の軽減(1級)
・生活保護の障害者加算(1級・2級)
・NHK受信料の減免(市県民税非課税世帯及び1級所持者が世帯主の場合)
・一部の携帯電話会社の障害者割引
自治体で独自にサービスを作っているところもあります。
【自治体によるサービス】
・市営、県営住宅への入居時の優遇
・鉄道・バス・タクシーの運賃割引
・上下水道料金の割引
・水族館・博物館などの入場料割引
また障害者手帳を持つことで、各種サービスを受けられることになります。
訪問系サービス:在宅で訪問を受けたり、外出時に支援するサービス
日中活動系サービス:施設などで昼間の活動を支援するサービス
居宅系サービス:入所施設での支援をするサービス
障害児通所サービス:18歳未満の障害児が施設に通所し、障害に応じた指導や訓練を受けるサービス
障害者手帳を持つことで、本人の自立を促すための色々なサービスが受けられるのです。
精神障害者保健福祉手帳の更新
精神障害者保健福祉手帳を交付された場合は、2年で更新の必要があります。
役所への提出物は申請書と診断書です。障害の程度を改めて確認し、必要であれば再判定を受けることとなります。
また医師の許可が降り、本人が納得すれば手帳を返還することも可能です。
精神障害者手帳にデメリットは存在する?運転免許など関係ない?のまとめ
- 「精神障害者保健福祉手帳」を持つことで運転免許が取れないということはない
- しかし一部病気の症状次第で運転免許取得の制限はある
- 就職には障害者雇用枠を利用することができる
- 生命保険の告知義務にはひっかかることがあるが、入れる保険もある
- 結婚・出産できるかは、お相手の気持ちや当人同士次第である
- 障害者手帳には身体・精神・知的で手帳の種類が分かれている
- 精神障害者の手帳の対象者は7つの精神疾患からなる
- 精神疾患の状態により障害等級が分かれており、それによって受けられるサービスも変わる
- 手帳の更新は2年ごとに医師の診断が必要であり、症状が回復すれば手帳の返還も可能
今回は、精神障害者保健福祉手帳を持つことにデメリットがあるのかを考えてきました。
運転・就職・生命保険・結婚において、デメリットが全くないわけではないですが、リカバリーできるものではあります。
本当の意味で偏見がなくなり、みんなが自分の能力を生かせる社会になると良いですね。