皆さんは沈丁花、という花の名前を読めますか?
答えはジンチョウゲと読みます。
え、読み方はチンチョウゲじゃないの?と思われる方もいらっしゃると思います。実は私もそうでした。
けれどこれは読み間違いにあたるものなのです!
どちらで読めばいいのかわからず困るものは、読み方はしっかり覚えておきたいですよね。
けれどなんで読み方が二つに分かれてしまったのか気になりませんか?実は作家の意地が関係しています。
これを読むと、読み方が二つに分かれた理由や沈丁花自体に焦点を当てた、より深い世界を知ることができると思います。
Contents
チンチョウゲとジンチョウゲの読みの違いはどちらが正しいのか問題
早速本題に入りましょう。
チンチョウゲとジンチョウゲの読みの違いについて、実は二つとも同じ花、沈丁花を指します。それなので意味も同じになります。
沈丁花を読むときに「チ」ンチョウゲと「ジ」ンチョウゲの違いについて、どちらが読みが正しいのかというと、「ジ」ンチョウゲだそうです。
主要な辞書を見ると、「ジ」ンチョウゲで意味の書いてあるものが殆どで,「チ」ンチョウゲで引くと「ジ」ンチョウゲに誘導されます。しかし漢字はパソコンで打つとチンチョウゲでもジンチョウゲでも出てきます。打つときは安心できますね。
話は逸れますが、そう聞くとよく邦楽内の歌詞や、曲の題名にも使われ、名前には馴染みがある方が一定数いると思います。アーティストが沈丁花をチンチョウゲと言っているのか、はたまたジンチョウゲと言っているのか確かめながら聞くと楽しそうですね。
ではなんでチンチョウゲとジンチョウゲの読みの違いが生まれたのか、その前に沈丁花の歴史について触れたいと思います。
沈丁花の歴史と誤用
沈丁花の歴史は長いです。
沈丁花は、日本国内に昔からあるものではなく、中国から室町時代に渡来した樹木なのです。花の香りが沈香と似ていることと、十字型の花が丁子(クローブ)に似ていることからきています。
名前の由来はどちらも香りがよく、両方合わせて沈丁花となったか、沈香が訛りとなったかまでは定かではありません。両方が合わさったこの香り高い香木は、クチナシ、キンモクセイと並んで人々に日本三大香木として親しまれていました。
日本の歴史に刻まれた、人々に好まれている樹木だったのですね。
中世からの和歌では、沈丁花を題材にして読まれた記述はあまり見られませんが、その代わり明治に入ってからの俳句には、春の季語としてよく使用されています。
そんな季語に使用されるくらいに歴史のある沈丁花ですが、なんでここまでジンチョウゲとチンチョウゲで違う読みの誤用が広まってしまったのか…?印象的な出来事が起こります。
かの有名な夏目漱石(1867-1913)の弟子である、久米正雄(1891-1952)という方が、朝日新聞に掲載される小説『沈丁花』 (中央公論新社 1933)に「チンチョウゲ」とふりがなを振りました。それを見た読者から「ジンチョウゲでは?」との意見が寄せられました。それに対して久米は「植物名としてはともかく、作品のイメージからして万葉風に清音にするのが相応しい」と反論したそうです。
そこに気を付けるのであれば、花(げ)もこだわるべきでは。と思われそうですが、どのような意図でいったのかは今になるとわかりません。意地でしょうか?この作品がのちに映画化され、さらに「チンチョウゲ」の名前が広まったと言われます。このように読み方の誤用から、チンチョウゲの呼び名が広がりました。
ここまででチンチョウゲとジンチョウゲの違いについて、どちらが正しいか理解できたかと思います。現在辞書に載っているのはジンチョウゲであるのに、誤用のチンチョウゲ読みが広まってしまったために現在は混乱が生じていることになります。
意識したときにはジンチョウゲを使ってください。
チンチョウゲとジンチョウゲの違いは分かったけど、そもそも沈丁花って何?
チンチョウゲとジンチョウゲが同じ名前の花を指して、かつジンチョウゲのほうが読みが正しいとわかりましたね。
けれど沈丁花って何?どんな花?などイメージがしにくいという方に、下記で沈丁花を紹介しましょう。
春を感じる上品で甘い香りだけでなく、生活に寄り添う樹木です。
気になる沈丁花の特徴とは?樹木の概要から
沈丁花って何?と思っている方に、これから沈丁花の樹木の概要の説明をしたいと思います。
樹木の概要を読むと、何となく沈丁花のイメージがしやすくなるのではないでしょうか。
原産地の中国では瑞香、紫丁香、蓬莱紫など色に着目した名前が見られます。
樹木の概要をあげるとすると、開花時期は3~4月頃で、春先になると外側が桃色で、内側が白色の小さい花が固まって枝先に咲き、花弁にあたる部分は光沢が見られます。まさに春の訪れを告げる花ですね。
樹木の短所としての特徴は寒さに若干弱いところです。なので温暖な地域では良く育ちます。木の高さは1~1.5mになり剪定しなくても枝が分岐してくれます。沈丁花は雌雄異株で、日本に流通しているのは雄株のみです。ですから実をつける様子は見ることはありませんが、雌株は赤い実をつけるそうです。ただし実には猛毒が含まれていますので食べないようにしましょう!
沈丁花は丈夫なので、ガーデニング初心者や、育ててみたいと思っている方には、おすすめの植物になります。雄株しかないので増やす際には挿し木で増やしましょう。
葉っぱに厚みがありますが、長さ4~10センチほどの長楕円型。ギザギザではなく枝から互い違いに生えています。葉の表には光沢が見られます。
沈丁花は春を感じる上品な甘い香りがします
上を見ると、物理的な沈丁花って何?という疑問が薄らいできたと思います。
他にも大きな沈丁花の特徴をあげると、なんといってもその上品な甘い香りがあげられます。
梅以外にも、嗅覚から春を感じる花があるのは風流ですね。
上にも書きましたがクチナシと、キンモクセイに並んで日本三大香木としても名高い植物になります。由来にも書いた通り、沈香と丁子を思わせる香りなので、自ずと引き寄せられる香りだろうということはイメージしやすいとおもいます。可愛らしい色合いに、良い香りのする花というところに優雅さを感じますね。
沈丁花が香りで春を感じる花の一方、その香り高さゆえに、茶席では敬遠されることがありました。
それは立花実山(1655‐1706)が『南方録』に書き写した『利休禁花』と呼ばれる狂歌に書かれてありました。
『花生にいけぬ花、狂歌に、
〽花入に入れさる花ハちんちやうげ太山しきミにけいとうの花
〽女郎花さくろかふほね金銭花せんれい花をも嫌也けり』
出典:熊倉功夫『南方録を読む』,株式会社淡交社,平成元年6月6日,p.415
現代語訳:花生にいけない花の名を詠みこんだ狂歌に、花入に入れない花は沈丁花と太山樒、鶏頭の花
女郎花、柘榴、河骨、金銭花、せんれい花もいれるのははばかられるものである。
これは香りの強い花、見た目で棘がある、毒々しい花、名前の悪い花は入れないようにとの意味になります。それぞれ
・繊細な抹茶の香りを楽しむため
・茶室での和をなし、会食をするのに有毒な植物は置けないため
・名前の響きが良くないから、茶室は清潔を良しとするため
との理由があります(上に使われた花の理由は諸説あり)
春を感じる上品な甘い香りが好まれていたとしても、場所によっては避けられていた様子が伺えますね。
メモ
利休の時代では「チ」ンチョウゲ読みでもよかったみたいですが、現代では「ジ」ンチョウゲで統一しましょう!
沈丁花は薬になる
魅力的な沈丁花の特徴として、沈丁花は薬にもなります。
室町時代より沈丁花は野山にはない、生活の身近なところにある樹木でした。
それにより医学より民間療法が発達していた時に、沈丁花の恩恵を受ける方法がとられていました。それが薬として使うことです。
・すりつぶした花でうがい薬を作り、咽頭炎の治療に使った
・葉を突き砕いてできた煎汁をおできの吹出しに使うときがあった、ただし茎葉の液には有毒なダブネチンが含まれており触れれば皮膚炎になり、間違えて食べると口内炎や胃炎になる
などちょっとしたことに重宝されていた様子がうかがえますね。毒にも薬にもなると言えば沈丁花の魅力がわかると思います。2番目は扱い注意ですが…。
沈丁花は紙の原材料になる
他にも魅力的な沈丁花の特徴として、とりわけ生活に密着していたと思われるものがあり、それが紙の原材料になるということです。
・樹皮は繊維が強靭なため、和紙の原料にも利用されていた。
今は昔に比べて生活の質が向上したので、薬や紙など良いものが手に入りやすくなりましたが、紙の原材料になるということで、暮らし的にも大いに役に立ったのではないでしょうか。沈丁花が人々の暮らしに寄り添っていたところも魅力的ですね。
また沈丁花には栽培品種も作られています。葉にまだらやシマの入ったものや、波状や葉がねじれたものが主に販売されています。そして仲間が広く分布しており、種類がその数約450種類もあるそうです!これらも多くが、強靭な樹皮が紙の原材料として使われています。
これで沈丁花って何?が解消したかと思います。これでより沈丁花の特徴の魅力が伝わったら嬉しいです。
見どころはチンチョウゲとジンチョウゲのフリガナの違いだけじゃない!沈丁花の美しい逸話の数々
ここまで読んでいただくと沈丁花の読み方や特徴を理解していただけたかなと見えます。
しかし沈丁花にはさらに美しい逸話まで残されています。神秘を感じるような花言葉の、悲しくも美しい由来や伝説を今回は紹介しましょう。
沈丁花の花言葉と学名
沈丁花の美しい逸話にはこんなものがあります。それを挙げるにあたり、最初は花言葉と学名についてお話します。
沈丁花の花言葉は「永遠」「不死」「不滅」「栄光」「勝利」……どこか少年マンガを彷彿とさせるワードですね。
学名は Daphne odora(ダフネオドラ)といいます。
沈丁花の花言葉について、「永遠」「不死」「不滅」は常緑樹で一年を通して瑞々しい葉っぱを付けていることから来ているとのこと。
ダフネはギリシャ語で月桂樹を指します。似ているということで学名に使われたようですが、厳密にはあんまり似ていません。
沈丁花の花言葉の由来の「栄光」はこの月桂樹に形が似ていることからつけられたとされます。
補足ではありますが、その学名の由来の関連で悲しくも美しいこんな話があります。
学名のダフネというのは元々はギリシャではニンフ(精霊)の事です。
ある時、矢を放って遊んでいた恋の女神エロースに向かって、太陽神アポロンがそしりをしました。
それによりエロースは怒り、アポロンには恋する矢を放ち、そこに居合わせただけの河の神ペーネイオスの娘であるダフネには、相手を嫌う矢を放ちました。
矢を受けたアポロンはダフネに求婚し続けますが、ダフネは矢を受けた影響でアポロンを嫌がります。
それを苦しく感じ、ダフネはペーネイオスに月桂樹に姿を変えてくれるように強く願いました。
願いが聞き入れられると、ダフネは月桂樹に姿を変えます。それを見たアポロンは深く悲しみ、自らの聖木であってほしいと
月桂樹で冠を作り、永遠の愛を誓い肌身離さず着けていたそうです。
補足とはいえ学名のダフネにはこんなに重たい話題がついていました。
ちなみにオドラは芳香という意味になります。これは、沈丁花そのものの特徴を捉えているとしてすぐ納得できますね。
沈丁花の伝説
沈丁花の美しい逸話として、輸入元、中国には香りにまつわるこんな伝説が残されていました。
ある日、僧が外で昼寝をしていた際に強い香りで目が覚めたことがありました。その香りのもとをたどっていくと、
沈丁花にたどり着いたとされています。そのことから、それ以来中国では沈丁花のことを、「睡香」と呼ばれているそうです。
香りにまつわる伝説は古今東西存在していますが、嗅覚に関することは、伝説としても逸話としても残りやすい傾向にありますね。
以上、沈丁花の美しい逸話と合わせての伝説についてでした。
チンチョウゲとジンチョウゲの違いとは?沈丁花の読みに決着を?!まとめ
今回はチンチョウゲとジンチョウゲの違いについてまとめてみました。
・フリガナを付けるときはジンチョウゲで!
・歴史ある沈丁花、誤用の原因は作家の意地!
・春の訪れを告げる上品な香りの木にも、使うのを控える場所がある
・昔は薬にも紙にもなった優秀な樹木
・沈丁花の花言葉と悲しくも美しい学名の由来。それと記憶に残る香りの伝説
を中心にまとめてきました。現在は「チンチョウゲ」は辞書だと、読み方として間違っているとされています。公式な文章を書くときにフリガナを付ける際は、「ジンチョウゲ」で書いてください。けれどパソコンやスマホで打つときはどちらでも出てくるので安心してください。
加えて沈丁花の特徴や逸話についても書いてみました。春の訪れを告げる上品で、甘い香りの樹木の意外な側面を知ることができたり、花言葉の由来や、香りに関することまで見ていただけたかと思います。
薬にも紙にもなる植物で、生活においても役に立つのはすごいことだし、それを見つけた先人へのリスペクトも生まれるようです。
この内容があなたの生活の一助になることを願っています。